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2020.06.16
外出制限中のストレスを緩和するピアノ曲って?おすすめの5曲
現在、全世界の半数が外出制限の中で生活しているといわれています。
前代未聞の混乱の中で、私たちは普段よりもストレスにさらされて生きています。気分が沈んでしまう時もあれば、やり場のない怒りを感じる時もあるかもしれません。そんな時、あなたの心に寄り添って、激励してくれたり慰めてくれるのが音楽です。 今日は、ストレスを感じた時に聴きたいピアノの名曲をご紹介いたしましょう。
『革命のエチュード』byショパン
俗に『革命』の名で知られるこの名曲は、正式名を『練習曲ハ短調作品10-12/革命のエチュード』といいます。ショパンが編んだ最初の練習曲集におさめられていますが、練習曲とは思えないほどドラマ性を感じることができる曲です。
冒頭から、怒涛のようなピアノの音が、まるで滝の激しい流れの中に身を任せるような気分にさせてくれる『革命』。左手から繰り出される低音の嵐は、絶望や怒りをこれでもかとたたきつけているかのようです。
『革命』は、これを作曲したショパンの当時の諸事情を理解すると、より私たちの心を鼓舞してくれるかもしれません。『革命』を作曲したころ、ショパンは20代前半でした。彼がこよなく愛した故国ポーランドは、1831年にロシア帝国の支配に対して11月蜂起と呼ばれる反乱を起こします。しかし、この反乱はロシア軍によって鎮圧されてしまうのです。愛国者であったショパンは、当然この蜂起に参加することを熱望していました。しかし、病に伏せることが多かったショパンはそれがかなわず、ポーランドによる蜂起の失敗というニュースを滞在先のドイツで受け取ることになったのです。そのやり場のない怒り、悲しみが、『革命』に込められているというわけですね。
最近の説では、『革命』作曲にまつわるこの逸話を否定する人もいるようです。しかし、20代前半のショパンの鬱屈は、じゅうぶんに曲の中で表現されているといってよいでしょう。 ちなみに、この曲はショパンの好敵手で友人でもあったフランツ・リストに捧げられています。3分弱の短い曲ですが、どうにも気分が乗らないときの元気促進剤として有効かもしれません。
『ラ・カンパネラ』byリスト
ピアニストの技巧をこれでもかと誇示できる曲としてよく知られている『ラ・カンパネラ』。
リストは同名の曲を何曲か残していますが、もっとも有名なラ・カンパネラは1851年に作曲された『パガニーニによる大練習曲 第3番嬰ト短調』です。パガニーニは、無頼のバイオリニストでした。そのパガニーニのラ・カンパネラを聴いたリストは、大変な衝撃を受けてピアノ曲に編曲したと伝えられています。通り名の「カンパネラ」とは、イタリア語で「鐘」の意です。といっても、ヨーロッパの教会から流れる荘重な鐘の音ではなく、ひじょうに軽やかで右手が奏でる高音が最初から最後まで印象的な傑作です。
リスト自身が世に知られたヴィルトゥオーゾであり、その彼が渾身の技術を駆使して編曲したラ・カンパネラだけに、現在も超絶技巧を要する曲として有名です。リストが世に送り出した曲の中でももっとも演奏が難しいといわれ、高名なピアニストたちがアンコールなどでこの曲を弾き、自らの資質を顕示します。
私たちにとっても、最もよく耳にするピアノ曲のひとつ。改めて聴くと、その軽妙な音の動きがこれでもかと迫ってきます。自然と、気分が高揚してくる効果もあり。 どんよりと気分が曇る日の朝、一杯のコーヒーとともに聴いてみてはいかがでしょうか。
『鐘』byラフマニノフ
ロシアロマン派の重鎮ラフマニノフが、若干19歳で作曲しロシアに熱狂を巻き起こしたのが『鐘』です。正しくは、『前奏曲嬰ハ短調作品3-2』。『幻想曲小品集』におさめられているこの曲は、重々しいピアノの音から始まります。曲が進むにつれて、聴く人の眼裏にさまざまな情景を思い起こさせてくれるような、そんな静かな力を感じる名曲です。
1891年にモスクワ音楽院のピアノ科を首席で卒業したラフマニノフが、満を持して発表した『鐘』には、後年その名を世界に知らしめることになるラフマニノフのロマン派としてのスピリットが詰まっています。
ショパンの『革命』やリストの『ラ・カンパネラ』と比べると、耳になじみにくい曲ではありますが、それだけに何度聴いても飽きることがありません。ひっ迫感を感じさせない緩やかな音は、ゆっくりと温かいハーブティーでも飲みながら繰り返し聴きたい気分にさせてくれます。
ちなみに、フィギュアスケーターの浅田真央さんが、『鐘』の管弦楽バージョンを使用したこともありました。ピアノで奏でられる『鐘』に漂う孤愁感が、管弦楽で奏でられると荘厳な響きになります。
『幻想即興曲』byショパン
まさに、ザ・ショパンといった趣のある『幻想即興曲』。
不惑を前にして亡くなったショパンの遺作とも伝えられる名曲で、ショパンのピアノ曲の中では最も有名な作品のひとつです。正式には、『即興曲第4番 嬰ハ短調 遺作 作品66』と名づけられています。悲しみと喜び、双方を織り込んだような『幻想即興曲』は華やかで耳になじみやすい曲です。ほっと息をつく時間に聴いても、仕事をする際のBGMにしても気分を盛り立ててくれるパワーがあります。
伝えられるところによれば、これほどの名曲なのにショパン自身は世間に発表することを望まなかったそうです。ショパンの死後、彼の友人であったユリアン・フォンタナによって『幻想即興曲』と名づけられ発表されました。現在は、フォンタナが手を加えたといわれるバージョンと、1962年にアルトゥール・ルービンシュタインが出版した版があります。 私たちが耳にする『幻想即興曲』は、フォンタナ版がほとんど。早逝した友人の才を惜しんだフォンタナの想いを、優しくくみ取りながら聴きたいものですね。
『月光第3楽章』byベートーヴェン
第1楽章の静謐なムードが有名なベートーヴェンの『月光』。
『ピアノソナタ第14番嬰ハ短調作品27-2』が正式の名になっています。ベートーヴェンが30歳のころ、つまり彼の聴覚に大きな問題となった時代に作られた曲です。 もっとも有名な第1楽章は、『月光』の名にふさわしい青くクールな光を感じさせるメロディになっています。
いっぽう、第3楽章は情熱的な激しさで終始します。悟りを開いたような緩やかさの第1楽章、未来に光明を見出したような明るさがある第2楽章に続いて、第3楽章はなにかに挑んでいくような力強さに満ちています。寝る前のリラックス効果ならば断然第1楽章がふさわしいのですが、目の前にある壁を突き破る必要があるときには第3楽章の勇ましさが私たちを後押ししてくれるかもしれません。
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