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2020.04.14
さまざまな輸入版の楽譜についての基礎知識
新たに楽譜を手にする喜びは、楽器を演奏する人にとって喜びです。
とくに、その楽譜の装丁が美しければ、さらに心をわくわくさせてくれることまちがいなしです。
とはいえ、楽譜は出版社によって特徴があります。どの楽譜が見やすいかは、演奏する人との相性といってもよいかもしれません。音符の見やすさや解釈などは、理屈ではなく感情に訴えるものだからでしょう。
一目見れば出版社が明らかな輸入盤の楽譜について、今日はご紹介いたしましょう。
ヘンレ社
「ヘンレ・ブルー」と呼ばれるグレーがかった青が特徴の楽譜、それが「ヘンレ版」です。
ヘンレ社は、1948年10月にピアニストでもあったギュンター・ヘンレによってドイツのミュンヘンとデュースブルクに設立されました。現在は、ミュンヘンに本拠地があります。
ヘンレ社のモットーは、構成の解釈を交えず作曲者による本来の意図を示す楽譜であることでした。とくに、18世紀から19世紀の音楽家の作品が軸となっています。現在も、プロアマ問わず非常に信用度が高い楽譜として普及しています。
ヘレン社が初めて出版した楽譜は、モーツァルトのピアノソナタ、シューベルトの即興曲などでした。
ヘレン社の楽譜は視覚的にも美しく、かつ紙の反射や裏移りがない実用性も高く評価されています。究極のシンプリシティと的確な注釈解釈は、楽譜出版社の中でも随一の評判があります。
ベーレンライター社
ベーレンライター社は、1923年にドイツのアウスブルクに設立された楽譜出版の会社です。1927年にカッセルに本拠地を移し、現在にいたっています。設立当時は、当時のドイツで庶民が歌っていた合唱歌などから出版が始まったと伝えられています。
創立者のカール・フェーテレは、熊の上に立って星に手を伸ばす男の子のデザインを当初のロゴとして使用しました。「ベーレンライター」とは、「熊に乗る人」の意です。まだ20代前半であった若きフェーテレの野心が、そのままロゴになったかのようです。現在のロゴは、熊と星のみになっています。
ベーレンライター社は、原典版出版社として名を成しています。楽譜だけではなく、音楽関係の書籍の出版も行っており、学術的なレベルの出版によって高名になりました。
ショット社
ヨーロッパでも有数の規模と知名度を誇るショット社は、創業が1770年。ベートーベンが生まれた年でした。本拠地はドイツのマインツにあり、社名は創業者のベルンハルト・ショットからとられています。
クラシック音楽の伝統を継ぐドイツには楽譜出版の会社があまた存在しますが、ショット社はブライトコップ&ヘルテルに次いで2番目に古い音楽系の出版社です。
伝統ある出版社でありながら現代音楽の楽譜出版の雄といわれており、20世紀から21世紀にかけての作曲家の作品が多いことで知られています。
創業当初は、当時人気であったフランス系の音楽家たちの作品を扱っていましたが、19世紀にワーグナーの作品を独占的に扱ったことが転換点となりました。
現在は映画音楽の楽譜出版も多く、ニーノ・ロータなどの著名な音楽家たちの作品を手掛けています。
ペータース社
ドイツのライプツィヒに本拠を置くペータースは、1800年創業当時はホフマイスター・ウント・キューネル・ビュロー・ドゥ・ミュジックという長い名前でした。2人の創業者の名字を取ったこの会社は、1814年にカール・フリードリヒ・ペータースに買収されて以後、現在の名前が定着しました。
1860年からはヒンリクセン家がペータース社を所有していましたが、世界大戦中にナチスドイツに会社は没収され、ユダヤ人であったヒンリクセン家も多くの人が亡くなりました。
紆余曲折を経て戦後、ヒンリクセン家に戻されたペータース社は東西冷戦の時代を乗り越えて、現在にいたっています。
黄緑色の枠が特徴的はペータースの楽譜は、音符の間隔も見やすく配置されており音楽家たちにも人気です。
シャーマー社
アメリカのニューヨークに本拠地があるシャーマー社は、ドイツ生まれのギュスターヴ・シャーマーによって1961年に設立されました。アメリカでは最も歴史ある楽譜出版社であるシャーマー社は、1915年にオスカー・ソーネックとともにアカデミックな音楽雑誌『The Musical Quarterly』を創刊したことでも知られています。
エリオット・カーターやヘンリー・カウエルをはじめとする、アメリカが輩出した多くの音楽家たちの作品を手掛けているシャーマー社、そのジャンルの広さにも定評があります。
比較的安価で手に入るという魅力もあり、読みやすい明快な楽譜は幅広く愛されています。
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