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2020.03.27
ドイツの保守本流を継ぐ作曲家ブラームス
ブラームス、と聞いてもなかなか代表曲を頭に浮かべることができる人は少ないかもしれません。しかし、彼が生み出した4つの交響曲は、クラシックコンサートの定番として今も愛されています。
バッハ、ベートーヴェンと並んで、ドイツの「3つのB」とも称されるブラームスは、まさにドイツの保守本流を継ぐ作曲家として知られています。
ブラームスとは、はたしてどんな作曲家であったのでしょうか。
シューマンの後押しで世に出たブラームス
ヨハネス・ブラームスが生まれたのは1833年、父はオーケストラのコントラバス奏者で生活は楽でなかったようです。名士の息子として裕福であったメンデルスゾーンやシューマンとは、出発点から異にしていました。
6歳で父から音楽を習うようになったブラームスは、卓越したピアノの才能を幼少期から認められるようになります。12歳でライプツィヒ音楽院に入学したブラームスは、ベートーヴェンのバイオリン協奏曲に感銘を受けて、作曲を始めたとも伝えられています。
10代後半、ブラームスはロベルト・シューマンが指揮してその妻クララがピアノを演奏するコンサートを聴き大いに感激し、自作の曲をシューマンに送りました。シューマンは、ブラームス作曲のピアノソナタを絶賛し、「ベートーヴェンの後継者だ」と評したそうです。
また、シューマンは自身が執筆していた音楽批評誌でもブラームスを紹介し後押しをしてくれました。この恩を、ブラームスは一生忘れずシューマン夫妻に尽くすことになります。
ブラームスは、センセーショナルにコンサートデビューしたのとは違い、ショパンによるジャーナリズムによって世に出ることになったのです。
男性的で質実剛健なブラームスの音楽
「ベートーヴェンの後継者」としての自負はブラームスにも大いにあったようで、最初の交響曲を完成させるのに20年をかけています。もちろん、その間にもさまざまの曲を手掛けてはいるものの、ベートーヴェンが残した9つの交響曲を超えたいという思いも強かったようです。
同じくドイツ出身の作曲家であるメンデルスゾーンやシューマンのメロディアスで繊細な音楽とは異なり、ブラームスの音楽はとても男性的です。まさに、ベートーヴェンの流れをくむ、「ザ・クラシック」という趣があります。
交響曲第1番には時間をかけましたが、その後も3つは比較的早く仕上がっています。いずれも、現在までコンサートの定番として定着している名曲です。
面白いことに、ブラームスはいずれの交響曲にも表題をつけていません。当時は、標題音楽が隆盛でしたから、その流れに逆行していたことになります。ブラームスにとって音楽は、言葉に頼るものではなく音そのものが表現するものであったのでしょう。
生活が豊かになっても、ブラームスは質素な生活を好んでいました。そのスタイルは、彼の音楽にも反映していて、曲によってはひどくとっつきにくいと感じるものもあります。
いっぽうで、言葉以上に雄弁にメロディーが感情を発する曲もあり、これがブラームスが「古いようで新しい」と評されるゆえんかもしれません。
ちなみに、交響曲第3番は映画『さよならをもう一度(原作は【ブラームスはお好き】)』に使用されていて、よく知られています。
生涯独身であったブラームス
120年このかた、まことしやかにささやかれるのが、シューマンの妻であったクララとブラームスの関係です。
精神に異常をきたしていたシューマンを最後まで看取り、その妻であったクララの後を追うように亡くなったブラームスは、生涯独身でした。もっとも、20代半ばでシーボルトの親戚にあたる女性と恋に落ち婚約まではしているのですが、結婚することなく終わっています。ブラームスは、クララについても婚約者についても語らず、彼の私生活は謎のままです。潔いほど自らを語らなかったのも、男性的な音楽を生みだしたブラームスにふさわしいといえるかもしれません。
なにもかもが対照的であったワーグナーとの不和は有名ですが、女性関係においてもブラームスは放埓なワーグナーとは正反対の潔癖な人であったのです。
民俗音楽にも目を向けた音楽家の先駆け
保守的と評されるブラームスですが、のちに隆盛する民俗音楽を取り入れたのもブラームスです。ハンガリー舞曲のメロディーを、ブラームスはクラシックに取り入れた最初期の一人として認められています。
ブラームスによって見出されたドヴォルザークは、民俗音楽を汲んだ音楽家として名を成すようになるのです。
ブラームスとピアノ
ブラームスの音楽は、コントラバス奏者であった父の手ほどきから受けるところから始まりました。
当初は、バイオリンやチェロを習っていましたが7歳からピアノを開始、10歳にしてモーツァルトやベートーヴェンを弾いて注目されています。ブラームス少年のピアノ演奏を聴いた興行師が、アメリカへの興行を誘ったというエピソードもあるほど、ブラームスは卓越したピアノ演奏力を有していました。
そのため、生涯に残したピアノ独奏曲は15作品、ピアノ三重奏曲や四重奏曲も多く、チェロソナタにおいても美しいピアノの旋律が印象的です。繊細な音の中にさえ骨太さを感じる、それがブラームスの音楽の特徴といえるかもしれません。
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