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2019.10.08
絵画?それとも詩?抒情的なドビュッシーの音楽とは
クロード・ドビュッシー。
その名を聞いて思い浮かぶのは、『月の光』であることが大半でしょう。
タイトルにふさわしい月の光を、聞いた人がそれぞれの心の中で描くことができます。青白くさやけし月影が、そのまま目に浮かぶような見事な写実性を、音楽で実現しているかのようです。ちなみにこの超有名な『月の光』は、ドビュッシーが作曲した『ベルガマスク組曲』の第3曲。ピアノ以外の楽器でも単独で演奏されるほど、多くの人に愛されてきました。
ドビュッシーが生きた19世紀、芸術の世界はモネに代表される「印象派」が席捲していました。ドビュッシーの音楽も、印象派の絵画に似た細やかさが特徴といわれています。そのドビュッシー、本人は異常なほど内向的な性格であったと伝えられています。内部にかかえた孤独ゆえに、ドビュッシー本人は、内面的な観念や情緒を暗示する「象徴主義」の芸術家であることを自負していたそうです。
フランスが誇るフランス人作曲家ドビュッシー
ルーブル美術館を抱え、高名な演奏家が多いフランス。
芸術の国といえばフランスと思い浮かべるのは、私たちが現代人であるからです。かつてのヨーロッパでは、絵画や音楽の世界の権威はイタリアやドイツ、フランドルに集中していました。19世紀に入ったフランスには、サン=サーンス、ドビュッシー、ラヴェル、サティといったそうそうたる音楽家を輩出し始めます。その中でも、もっともビッグネームとして扱われるのがドビュッシーというわけですね。
ラヴェルは、ドビュッシーとは対照的に、彼自身が印象主義であることに矜持を持っていたという説もあります。しかし現在は、音楽史上における印象派の祖はドビュッシーとされています。それほど、彼の音楽には視覚的な効果が認められるのです。冒頭にあげた『月の光』以外にも、ドビュッシーの作品とわからずにCMなどでおなじみになっている曲も数たくさんあります。たとえば、前奏曲の第8曲『亜麻色の髪の乙女』や2つのアラベスク、子供の発表会の定番『喜びの島』などなど。いずれも、映像なしで聴いても、頭の中に美しい風景を思い起こさせるものばかりです。
味覚にも影響を与えるドビュッシーの音楽
ドビュッシーの代名詞ともなった代表作『月の光』は、甘く柔らかなイメージを醸し出すことで知られています。そのために、サイエンスの分野においてクラシック音楽を使用した実験に登場することも多いのです。
たとえば、ドビュッシーの『月の光』を聞きながらワインを飲んだ人は、そのワインの味わいまで「甘美でソフト」と批評したそうです。背後に流れる音楽が、味覚にどのような影響を与えるかという実験の結果ですが、視覚的にも幻想的な世界を生み出してくれるドビュッシーの音楽は、脳にさまざまな刺激を与えているのかもしれません。
1862年にパリで生まれたドビュッシーは、幼少期の2年弱をカンヌの叔母の下で過ごしました。カンヌの美しい風物は10歳にも満たなかったドビュッシーに大きな影響を与え、後年の音楽活動に反映されたともいわれています。薔薇咲く小道、花々の香り、人々の話声などの鮮明な思い出が、あらゆる感覚に訴えるドビュッシーの音楽の源泉となったのだと。
夢想的な音楽の陰に数々の女性スキャンダルが!
クラシック音楽の歴史の中でも、ドビュッシーの音楽は近代の扉を開けた革新的なものでした。
生涯に残したピアノ曲は40曲、歌曲70曲をはじめ200に近い作品を残していますが、ピアノ曲の多くは単独であるがゆえに、ピアノ本来の音がさらに美しくなるような不思議な魔力を持ちます。このような美しいメロディを生み出したドビュッシーは、男性としてどんなに魅力があったのだろうかと想像しますね。
実際、ドビュッシーはスキャンダラスな女性関係でも有名でした。
内気すぎる彼が、どのようにして女性を魅了したのかは三文記事的に興味があるところですが、幼少期のドビュッシーの才能を見抜いたのも女性なら、若き日の彼のパトロンとなったのもロシア人の富裕な女性でした。こうした女性たちに支えられて、20代から本格的に音楽家としての活動を開始したドビュッシー。旧来の音楽から近代への扉を開いた彼の音楽人生は、紆余曲折がありました。女性関係もしかり。同棲、婚約、浮気、相手の自殺未遂、破談、電撃婚約、不倫などなど、昨今の新聞をにぎわす文字すべてが、ドビュッシーの女性関係に登場します。
同年代の作曲家ラヴェルの作品が古典的で男性的な力強さを感じるのとは反対に、ドビュッシーの音楽はとても柔らかで夢見るようなメロディが多いのですが、生涯を彩ったこうした女性たちとの関係も作品に反映されたのかもしれません。ちなみに、相反する特徴を持つラヴェルとも、お互いに尊敬を交し合える仲であったそうです。
ドビュッシーの作品=深い精神性
ドビュッシー自身は、「言葉が途絶えたところから音楽は始まる」と語っていました。フランスの象徴派の詩人ステファン・マラルメに共鳴したり、イタリアの作家ガブリーレ・ダヌンツィオと意気投合したりと、言葉への思いも深かったドビュッシー。彼の音楽は確かにコンサートホールで聴いても素晴らしいのですが、自分一人と向き合う時間にふさわしい音楽であるのではないでしょうか。その深い精神性は、音楽における印象主義の祖と呼ばれながら、象徴主義を自負していたドビュッシーだからこそ、生み出し得たメロディに宿っているのかもしれません。
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