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2019.04.02
ジャズにおける完全即興を極めたキース・ジャレットの演奏3つの魅力
アート・ブレイキー、マイルス・デイヴィスらのバックを務めたことでも知られるジャズ・ピアニスト、キース・ジャレット。
キースの演奏/パフォーマンスの魅力は、
- ジャズの醍醐味を味わえる完全即興でのライヴ
- ジャズの可能性を押し広げた先駆性
- 観客の咳払いさえ許さない徹底したライヴ・パフォーマンス
の3つが挙げられます。
キース・ジャレットのその3つの魅力について解説していきます
ジャズの魅力を存分に活かした完全即興でのライヴだから生まれる偶然性
キース・ジャレットの演奏の最大の魅力は、やはり「完全即興だからこそ、コンサートごとにどんな演奏が繰り広げられるかわからない」ということでしょう。
その醍醐味が味わえるのが,1972年頃から開催されたソロ・コンサート。プログラムすらないこのコンサートの模様は、1974年に2枚組アルバム、『ソロ・コンサート』としてリリースされ、世界のジャズファンに衝撃を与えたと言われています。
そもそもジャズは、ベニー・グッドマンらに代表されるスウィング・ジャズ以降、即興演奏を軸としたビバップへと発展してきました。ですが、時に難解でもあるビバップですら、テーマ(主題)やコードが決まったうえでアドリブが行われています。対して、キースが行ったライヴ・パフォーマンスは、テーマやコードすらなく、まさに完全に即興な演奏です。
概して、完全即興となると、先鋭性や前衛性が全面に出てしまい、大衆的な要素が失われてしまいます。
しかし、キースのライヴ・パフォーマンスは、完全即興でありながら、ピアノの美しい旋律を活かし、大衆性も保たれた稀有な演奏になっています。
後進に大きな影響を与えたジャズの可能性を拡げる表現力
キースの完全即興でのライヴは、ジャズの可能性、とくにジャズ・ピアノの可能性をさらに押し広げたともいえます。
キースは、『ソロ・コンサート』に続く完全即興のライヴ・アルバム、『ザ・ケルン・コンサート』を1975年に発表。彼の代表作となった同作は、完全即興という一般的でない試みでありながら、大ヒットを記録。
この作品のヒットは、世に衝撃を与え、その深い表現力と構造は、ジャズ・ピアノの可能性を大きく広げたとされています。
また、80年代に入ってからは、クラシック音楽のレコーディングも積極的に行い、名門ジャズ・レーベル「ECM」にクラシック部門を創設。第一弾リリースとなった、クラシック/現代音楽家、アルヴォ・ペルトのアルバムに楽曲を提供するなど、ジャズの枠組を超えた活躍をみせています。
咳払いさえ許さない徹底した完全主義で聴衆とライヴを作り上げる
キース・ジャレットのライヴ演奏は、観客の声出しや拍手・着信音など、とにかくキースにとって「雑音」となるものは厳禁というルールがあります。
事実、過去には観客の咳や指笛などを理由に、演奏を中止、そのままコンサートを強制終了してしまったというケースもあります。その姿勢は、60歳を越えても変わらず、2014年には大阪で行われたコンサートでも、演奏を中断してしまうということもありました。
「たかが咳ぐらいで演奏をやめるなんて」と思う人もいるかもしれません。ですが、これは傲慢ではなく、キース・ジャレットの「何もない、静寂の中から音をつむぎ出して即興演奏をする」というスタイル故のものです。
だからこそ観客も、キース・ジャレットが「何もないところから音をつむぎ出す」という現象を作りだすのを見届けるためには、どれだけその演奏に感銘を受けようと、拍手はしてはいけない、声援を送ることもありません。
「キースの演奏のみが聞こえる空間づくりをして、キースにインスピレーションが降りてくる環境を演出する」こそが、観客にとっての、キースに対する最大のマナーと言えます。
つまり、ライヴ音源におけるキース・ジャレットの演奏は、「見えないところで、観客もキースと一体となり、最高の即興演奏を実現するための空間づくりに協力している」という一体感も味わえるのです。
この部分も意識して、あらためて音源を聞いてみると「よくぞ、この盛り上がりで誰一人拍手もすることなく、静かにできたものだ」と感心することも多々あるでしょう。
完全即興のキース・ジャレットの演奏は「音源だけではなかなか見えない部分での観客との一体感」が生まれてこそ、最大限の魅力を発揮できるのです。
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