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2018.06.26
バッハがいた時代にピアノはなかった!?ピアノができるまでの歴史
バッハ(ヨハン・ゼバスティアン・バッハ 1685-1750)といえば、さまざまな名曲を生み出した「音楽の父」と呼ばれている人物です。『主よ、人の望みの喜びよ』が有名な教会カンタータや『ブランデンブルグ協奏曲』、冒頭のメロディーが印象的な『トッカータとフーガ』、バイオリンでよく演奏される『G線上のアリア(管弦楽組曲)』など様々な楽器のための曲を残していますが、実はピアノのための曲は作曲していません。そもそもバッハがいた時代に「ピアノ」はありませんでした。今回は、ピアノとバッハの歴史についてご紹介します。
バッハが弾いていたのは、チェンバロだった
バッハの時代、鍵盤楽器といえばオルガンかチェンバロでした。チェンバロとピアノは形がよく似ていて、どちらも鍵盤を指で押さえて演奏します。見た目に大きな違いはありませんが、性能にはさまざまな違いがあります。例えば、チェンバロは、爪で弾くことで弦を振動させて音を出す「撥弦楽器」ですが、ピアノはハンマーで叩いて弦を振動させ音を出す「打弦楽器」であること。また、チェンバロは音の強弱をつけることができません。ピアノは、強い音も弱い音も出すことができ、音を持続させるペダルもあります。
ピアノの誕生
現在のピアノの原型を作ったといわれているのは、バッハと同じ時代のイタリアの楽器制作家であるクリストフォリ(バルトロメオ・クリストフォリ 1655-1731)です。クリストフォリは、爪で弦を弾いて音を鳴らすチェンバロの音が強弱の変化に乏しいことを不満に思い、ハンマー仕掛けで弦を打って音を鳴らす現在のピアノ・メカニズムを1700年代頃に発明したといわれています。
発明当初クリストフォリは、このメカニズムを備えた楽器のことを「クラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ(イタリア語で、弱音も強音も出せるチェンバロ)」と名付けました。ピアノの誕生です。
しかしクリストフォリが発明したこのピアノは、現在のピアノと大きく異なりチェンバロに近い音色だったといいます。つまり、バッハがいた時代に現在のピアノはありませんでした。
少年時代、ボーイ・ソプラノとして特待生の待遇を受けるほど美声を持っていたバッハは、声変わりでその美しい声を失ってしまいます。そんなときに彼の支えとなっていたのが、オルガンやチェンバロといった鍵盤楽器でした。バッハは『フランス組曲』『平均律クラヴィーア』『ゴルトベルク変奏曲』など鍵盤楽器のための曲をたくさん残しています。今日ではピアノで演奏されることが多く、ピアノ曲だと思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、これらは元々チェンバロのために作曲されました。
ピアノの歴史
「クラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ」がクリストフォリに発明された後、ドイツのオルガン制作家であるジルバーマンが改良を重ねて、新しいピアノを作ります。
ジルバーマンがアドバイスを求めたのが大作曲家バッハです。そうして作られたピアノはポツダムの宮廷で使われるようになりました。1747年、バッハは宮廷を訪れ、そのピアノでフリードリッヒ大王から与えられた主題(メロディー)を即興演奏します。後にバッハは、『音楽の捧げもの』という題でこの作品を大王に捧げたといわれています。
さて、18世紀後半になるとピアノ製作はウイーンを中心として盛んになります。モーツアルトやハイドンが活躍した時代です。
19世紀には産業革命も後押しし、ピアノは大きく改良され現在の形に近づきます。ベートーヴェンをはじめ多くのピアノの名手たちが現れました。家庭にも、チェンバロにかわってピアノが置かれるようになり、シューベルトやメンデルスゾーン、シューマン、ブラームスなど多くの作曲家がたくさんのピアノ曲を残しています。
この頃までのピアノは現在のピアノと区別して「フォルテピアノ」と呼ばれています。
そして19世紀後半になると、ほとんどピアノの曲だけを書いたショパンや、「ピアノリサイタル」を最初に開いたといわれるリストといったピアニストらが活躍し、オーケストラに匹敵する楽器としてピアノはその表現力を磨かれていきます。こうして現在のピアノの形が出来上がったのは19世紀末ですが、今でも細部の改良や新しい技術の研究が続いています。
オルガンやチェンバロの名手だったバッハがいた時代に誕生したピアノ、「クラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ」は、チェンバロに近い音色で現在のピアノと大きく異なります。バッハが亡くなった後、何度もピアノの改良が重ねられ、現在のピアノになったのです。
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