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2019.02.19
新しいジャズの地平を切り開くロバート・グラスパーが全音楽家に注目される理由
ジャズに限らずR&Bやソウル、ヒップホップなど多様なジャンルのミュージシャンらと交流し、常に“新しいジャズの形”を世の中に示してジャズシーンを牽引しているロバート・グラスパー。
今回は、ロバート・グラスパーの経歴や音楽性の特徴について簡単におさらいしつつ、多くの音楽家からジャンルの垣根を超えて注目されている理由について解説します。
ロバート・グラスパーが全音楽家に注目される理由とは
ロバート・グラスパーは1978年に生をうけ幼少期からジャズに触れて育つ
ヒップホップとジャズを見事にクロスオーバーさせ、00年代以降のシーンを牽引するジャズ・ピアニスト、ロバート・グラスパー。ロバート・グラスパーは1978年にアメリカ・ヒューストン州で生まれ、幼少期からジャズ・ピアノに触れて育った経歴を持ちます。
ロバート・グラスパーの母(キム・イヴェット・グラスパー)はシンガーであり、ジャズクラブや教会などでジャズ、ブルース、ゴスペルの歌唱を披露する活動を行っていました。ロバート・グラスパーは母のパフォーマンスの場へ同行することが多く、母の影響をうけて彼自身も幼少期から音楽に興味を持ち、自らピアノに触れてジャズに対する知見と興味を伸張します。母の歌唱活動に伴い、教会で自身のピアノ・プレイをリスナーに披露する機会もありました。
若い頃から自らのピアノをパファーマンスしながら育ったロバート・グラスパーはテキサス州の公立高校を卒業後、同州に所在する芸術学校、High School for the Performing and Visual Artsに進学。同芸学を卒業後、さらなるジャズ・ピアノの知識と技術を学ぶためニューヨーク州に所在する私立総合大学The New Schoolのジャズ&コンテンポラリー・ミュージック科を専攻します。ロバート・グラスパーは同大学でソウルシンガーのビラル・オリバーと親交を深めライヴ活動を行うようになり、また学ぶ音楽のフィールドはジャンルの垣根を超え、ジャズに加えてヒップホップの演奏テクニックおよび楽曲アプローチに関する素養も深めました。
2004年に自身が手がけるピアノ・トリオのデビュー作品 Mood をリリース
2004年、ロバート・グラスパーが手がけるピアノ・トリオのロバート・グラスパー・トリオがデビュー作品『Mood』をリリース。本作はジャズシーンの雄ハービー・ハンコックの楽曲「Maiden Voyage」を基に英国ロックバンドRadioheadの楽曲『Everything in its right place』をバッキングとして重ねた鮮烈なアレンジを世に示し、期待のジャズ・ピアニストおよび作編曲家として注目されました。
さらにロバート・グラスパーは翌年2005年に米国ブルーノート・レコードと契約し、自身初のメジャー・デビュー作品『Canvas』をリリース。本作は総じてビートがタイトでありながらテーマ、インターバルともに余裕のあるアタック感が心地よい楽曲が多く収録されている作品です。ロバート・グラスパーは軽快かつ甘美なテーマ(主旋律)プレイに加え、テンション・ノートを含むコードチェンジおよび音使いのインターバル、高揚感を演出するビートの刻みなどを軽快にプレイしており、高練度なジャズ・ピアノ演奏が収められています。
2004年~2005年にかけて鮮烈なデビューを飾りジャズ界隈で名を馳せたロバート・グラスパーは、2009年リリースの4thアルバム『Double-Booked』によって自身の音楽性の変遷を示しました。本作は前半と後半でそれぞれ演奏形態が変わっており、前半は知的で都会的な雰囲気のピアノ・トリオであるのに対し、後半はシンセやベースなどのセクションが加わったエクスペリメントの形態でヒップホップのエッセンスが取り入れられた楽曲演奏が収録されています。
2013年のグラミー賞で Black Radio がBest R&B Albumを受賞
ロバート・グラスパーは『Double-Booked』で、ヒップホップとのクロスオーバーの片鱗を世に示した後、エクスペリメント名義での活動に注力して自身の5thアルバム『Black Radio』を2012年にリリース。同作は翌年のグラミー賞で〈Best R&B Album〉を受賞し、この作品を以って、ジャズとヒップホップのクロスオーバーという音楽性を世に広く示しました。
『Black Radio』の収録曲はバンド形態による演奏およびサウンドが主幹であり、レイラ・ハサウェイやクリセット・ミッシェル、学生時代の盟友であるビラル・オリバーといった、ネオ・ソウルシンガーをフィーチャーした楽曲も収めています。同作のヒットによってロバート・グラスパーはジャズに限らず多様な音楽シーンから注目されるプレイヤーおよび作編曲家となりました。また続発の『Black Radio 2』では、ジャズシンガーのノラ・ジョーンズやラッパーのスヌープ・ドッグといったミュージシャンを集めて音楽性のさらなる伸張を図ります。
ロバート・グラスパーの音楽性はジャズがモダンの域を出てそれぞれ多様性を持ち発展した様式と同様に、時代の変遷にあわせて新たな要素・アプローチを取り入れる挑戦をしてきました。従来のアプローチに固執して自己表現を追求したビル・エヴァンスのようなジャズ・ピアニストも存在しましたが、楽曲で独自性をもったサウンドおよびアプローチを示すためにはインプットとアウトプットの柔軟性が求められます。ロバート・グラスパーは高水準な演奏技術と理論に加えて高い柔軟性を備えているため、今後もジャズの歴史を新しく開拓し続け巷間の注目を集めることでしょう。
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